小説家島崎藤村の生家が大火で焼失した跡地につくられた文学館である.
建築家 谷口吉郎によって設計された.
谷口吉郎と言えば,モダニズム建築の名手でありコンクリート造の近代建築のイメージが強い.
跡地に文豪を記念する建物をつくりたいという地元民の想いを受けて引き受けた設計が木造の素朴な造りとなったのは,これが戦後の貧しい時代に村民の手によってつくられる建築物であったためである.
谷口によって設計されたのは,門とその先の漆喰塗りの塀.そして廊下のような展示スペースである.奥の展示室は後に建設された.
母屋が建っていたところは,砂利敷きで不在を象徴的に扱っている.
展示室は部屋というより通路.谷口の設計は跡地を巡る半屋外的な通路としてデザインされたギャラリーである.
その様に捉えるとこの建物の古めかしい佇まいとは真逆の極めて現代的な構想が為されたことが理解できる.
長い通路廊下のようなスペースの奥に島崎藤村の胸像が展示され,最後に彼に会うという演出がなされている.
厳しい設計条件が生み出した驚くべき建築である.