十和田市現代美術館/西沢立衛

青森にはよく知られた二つの美術館がある.

一つは,青木淳さんの設計した青森県立美術館(2005年竣工).
そして,もう一つはSANAAとしても活躍されている西沢立衛さんが個人名義の事務所で設計された十和田市現代美術館(2008年竣工)である.

竣工当時,学生だった私はどちらかと言えば,遺跡の発掘現場から着想を得たダイナミックなコンセプトの青森県立美術館に目が行きがちであった.白い箱をバラバラに配置し,通路でつなぐという比較的シンプルなコンセプトで計画されたこの美術館には然程注目していなかったと記憶している.
建築よりも展示作品である「Standing Woman/ロン・ミュエク」が気になっていた.
当時,学生間では西沢立衛さんや,藤本壮介さん等の影響を受けて,近しいコンセプトで設計演習に取り組む者も多かった.図面や外観写真からなんとなく既視感のようなものを覚え過小評価していたのだと思う.

今にして思えば,当時の資料の読み込みの甘さ,浅はかさを反省する次第….


実際に訪れてみると評価は大きく覆されることとなった.
やはり,写真では伝わらない魅力のある建築である.
もっと早くに訪れるべきであった.


紙面から理解できなかったのは建築のシークエンスであり,緻密に設計された”アートと出会う体験”であった.
建築は実際に体験しないと分からないということを改めて実感する.

展示作品こそ少ないが,作品の為の空間があり,作品との出会い方が抜群に良い.


ガラス張りの明るい通路を歩くと次の空間が垣間見え,期待が高まる.

期待を胸に通路を抜けて,様々な大きさのホワイトキューブの展示室に足を踏み入れる.

窓が設けられ,自然光がふわりと入り込む空間でたった一つのアートと出会う.

この連続が心地良い.

また,カフェスペースも意外なことにとても居心地が良い.
写真で見るとスケールアウトした巨大な箱.
床がカラフル…ぐらいの印象に留まり物足りなさを感じる人がほとんどであろう.
しかし,実際に利用してみると独特の開放感があり,インテリアが無くても十分な魅力があることが理解出来る.

遅めの朝食をここで食べたが,人が居なくて貸切状態であったので最高の時間を過ごせた.

SANAAとして設計された作品も素晴らしいが,西沢立衛事務所単独での作品もやはり,開口や空間のプロポーションといった空間の本質に対する設計精度の高さに唸るものがある.

また,同じく西沢立衛事務所の設計の,豊島美術館,軽井沢千住博美術館のどちらについてもアートとの対面の仕方,その体験がとても自然で素晴らしいものになっている.

この建築と合わせて,多くの人に実際に体験して欲しい建築である.

きっと,SNSや華やかなインテリア誌を眺めるだけでは知りえない,新しい建築の魅力と出会うことになるだろう.