小泉八雲旧居(島根県松江市)

島根県松江市.松江城のすぐ北側にある比較的小さな武家屋敷で,
明治時代にイギリスから日本に帰化した小説家,小泉八雲が一時住んでいた小さな建築である.
モダニズムの建築家,菊竹清則設計の田部美術館を訪れる際に何となく気になって入って見たところ,
衝撃的とも言える素晴らしい空間体験をここですることができた.

門を潜ると砂利敷きの小さな広場にでる.
こじんまりとしているが要素がバランスよく配され,潔く,美しい.

中に入って最初の部屋は,四畳に満たない小さな空間である.
そのすぐ奥に明るい空間が待ち受けていることが分かり,期待感が高まる.

歩みを進めると,パッと視界が開け,庭の緑が飛び込んでくる.
奥行きの浅い内縁を持つこれまた小さな部屋である.

庭がとても近く感じられる.

西側の庭へ開けた窓を持つ小さな間を経由して
蓮池のある北側の庭に面するまたまた小さな部屋へ.
開口は小さいが,さらに奥行きの浅い内縁が設けられ,庭が近い.
書斎として使われてたようだ.

小さな建築をさらに小さく小分けにした間取りが,
窓や奥行きのことなる縁側によって,表情の異なる庭と密接な関係を築いている.

小さな部屋が連続するため,数歩足を進めるごとに,
次々と表情の異なる空間が展開される様子は,
紙芝居のようでもあり,万華鏡を覗いたようでもあった.

この魅力的な体験を写真で伝えることは非常に難しい.

建物から出るときに,最初の小さな広場は全く違ったものに見えた.
見え隠れする街への斜めの動線は,奥行きを感じさせる.

大袈裟に言えば,この建築は時空を圧縮した小宇宙であった.
“小ささ”が生み出す無限の広がりを感じることができる貴重な建築である.

とても印象的な体験であった.
是非,実際に訪れてみてほしい.