古今伝授の里 フィールドミュージアム/瀧光夫

岐阜県の山間部郡上市にあるミュージアムである.
設計は,緑と融合した建築を多く設計した建築家である瀧光夫.

この建築は,建物そのものを緑化することはしていないが,自然豊かな郡上の山中に,
複数の意匠の異なる建築を分散配置することで,集落のように環境に建築が溶け込んだ風景をつくっている.


中でも特に注目したいのは,フレンチレストラン「ももちどり」と,「和歌文学館」である.
ももちどりは,池に浮かぶガラス張りの小屋としてデザインされている.

「ももちどり」は池という緑の中の余白に囲まれているため,必然的に目立ち,目に止まる.
合掌造りの切り妻屋根であるが,客席をぐるりとガラス張りにしており,風景に馴染みつつ,モダンで開放的な雰囲気を持っている.

「ももちどり」を通り過ぎ歩みを進めると,この施設の目玉となる建築「和歌文学館」がひっそりと佇んでいる.


外壁はグレーの板張りで,ここの建築群の中で唯一,陸屋根が採用されている.
外壁の質感が素朴さを持ちつつも,とてもモダンんで洗練されて印象を受ける.

しかしながら,建物の角に窓が設けられており,周囲の風景を写し込み,
建物そのものも,地形に沿うように雁行した形状となっているため,風景に馴染んだ印象を受ける.

その複雑な外観から,全体像を想像するのが難しく,期待感が高まる.

エントランスを抜けて最初に出迎えてくれるのは,水盤が設けられた光庭と奥へと続く長細い展示室である.

インパクトのある立体的な空間で,鏡貼りの柱梁の映り込みも相まって,複雑さ極まる様相となっている.


外部の風景があちらこちらから飛び込んできて,とても楽しい.
一階は,歌人の紹介パネルやショップが並んでいた.


階段を登ると,広いメインの展示スペースが現れる.
ガラス張りが連続し,風景が飛び込んでくる清々しい空間である.


雁行する通路上の展示空間には,ギャップを活かしてベンチが設けられており,
窓際に居場所が多くつくられている.

廊下の先は,吹き抜けとなっており,一層したに降りたところに休憩コーナー.

三角形のトップライトや,半円の2階フロア.
地形に基づく有機的な形態と建築的な幾何学が対比的である.


廊下の突き当たりに会議室が設けられている.
住宅の一室のような落ち着いた雰囲気でとても良い.

吹き抜け側(室内側)に窓が折れ込んでくる構成に遊び心が感じられる.
外観上の窓の連続を壁で区切らない為の意図もあると思われる.

様々な角度で窓が設けられている為,
時間経過によって,外から入る光が常に建築の表情を変えてくれる.

ダイナミックな構成が驚きをもたらし,
開放的な空間が気持ちよく,居心地の良い建築であった.

この建築の大胆な窓の作られ方には,ある種の前衛性が見出され,建築そのものの魅力でもある.
しかし,建築以上に自然豊かな風景を主役とし,あくまでも豊かな自然の中で和歌を楽しむという体験の下支えに徹した結果でもあるのだと感じられた.

環境,コンテンツを含め,素晴らしい建築体験であった.