後藤昭雄芸術館/杉下均

岐阜県関市にある小さな美術館である.
元関市長で芸術家,故後藤昭雄氏の作品を展示するために建てられた.

街並みにおける建ち方は住宅的に感じるものがある.
オーナーの母親の住まいを兼ねていることもその理由の一端であろう.

街並みに調和しており,美術館やギャラリーにありがちな敷居の高さは感じさせない.


低く抑えられた軒下を通ってアプローチをし,エントランスを抜けると,
一段低くなった砂利敷の土間空間に出る.
この空間は天井高もあり,外観からは想像しにくい大きな空間である.

また,エントランスを抜けた正面には,T字型の十字架が設置され,故人の名が印されている.

T字型の十字架とその配置から,ポルトガルの巨匠アルヴァロ・シザの代表作マルコ・デ・カナヴェーゼスのサンタ・マリア教会を想起した.

土間の延びる方向には棺を連想する木箱が並ぶ.
中にはスケッチブックやフォトアルバムがぎっしりと詰められている.

なるほど,これは礼拝堂や墓地を意識した建築なのだと理解が進む.


礼拝堂では十字架は突き当たりに設けられるものであるが,ここでは手前に設置されている.
それは故人のメタファーであったとしても,その役割は迎え入れることであり,主役が作品であるためであろう.

作品に向かって足を進めると,砂利を踏み締める音が小さく響き,
そこで無闇に動き回ることを阻む.

程よい緊張感が身を包む.

作品に向き合い,足を止めれば静寂.

暗さに目が慣れて,徐々に色彩が浮かび上がってくる.


光の獲れ方にも熟慮を感じる.
一つ一つの採光が違和感なく空間の静けさに調和しており,
シンプルで明快な構成を持った空間に緩やかなリズムをもたらしている.

絶妙なバランス.
杉や漆喰,砂利やモルタル.
特別な素材は使っていなくとも,慎重に練り上げられた空間に強度を感じ,納得.
物語のある多元的なシークエンスが存在し,
美術鑑賞という行為の為の緊張感を上手く創出する良い建築であった.

実のところ,私は実際に訪れるまで,以前にちらっと見た写真から,砂利敷の土間や住宅的な佇まい,
暗い展示空間等の組み合わせに,建築家の定石的な作風や嗜好が,
建築の必然性に先行した恣意的な印象が強くなっているのではないかと懸念を抱いていた.

しかし,その予想は完全に誤りであった.
建築は訪れてみないと分からないものだと改めて思った.
同様のことを思ってまだ,訪れていない方がいたら是非訪れて体験してみてほしい.

 

オーナーとの対話も楽しく,つい長居をしてしまった.
曰く,近所の人には不評であるとか…
砂利の土間や暗さに理解が示されないらしい.

それは仕方がないことだと思う.

建築に限らず,音楽やスポーツ,将棋やテレビゲームからお笑い番組に至るまで,
凡ゆるものは経験により理解が深まり,楽しめるものとなるのだから.

ここを訪れ,美術鑑賞が繰り返される中で,少しずつ理解が進み,
地域に建築と芸術的な感性が根付いていくと素敵だなと思う.

そんな未来と,物語がここから起こることを期待したい.