にんじん通りの氷菓店『赤鰐』

30年に渡り,岐阜市の市街地中心部に店を構えていた かき氷店「赤鰐」が,岐阜県各務原市に移転することとなった.
移転先は,随分と雰囲気が変わり,畑に囲まれた長閑な場所である.

敷地の前面道路は「にんじん通り」と呼ばれ,各務原の名産品でもあるにんじん畑の中を通る道路である.
その可愛らしい名前に反し,交通量は比較的多い.

夏季には屋外も利用してかき氷を提供することとなる.
従って,飲食スペースの落ち着きを得る為,長細い敷地の奥,
道路から離れた位置に建物を配置することとなった.

畑の中にポツンと建つこととなったこの建築を,
そこにある必然性を感じられるように如何にして環境と結びつけるのか,大きな課題となった.

にんじん通りを進んで見られる風景は,特別魅力的なものではない.
畑があり,平凡な住宅地がその奥にある.


そんな中でも設計の手がかりを見つけることが出来た.
住宅地のそのまた奥にある小山の連なる風景である.
愛宕山と名付けられたその山もまた決して壮大なものではない.
標高は268m.

地元人の私としてもその存在を忘れるほどにささやかなものである.

しかし,改めて見ると稜線の形はどこかチャーミングでもあった.
これを建築を通すことで,魅力的な風景を捉え直すことが出来るのではないかと考えた.

敷地と山頂の高低差,水平距離から屋根の勾配を決定し,山に向かって高窓を設けた.
窓の下には壁が立ち上げ,キッチンを設けた.

この二つの操作によって,山の麓から敷地付近まで広がる住宅地を視界から隠し,山の稜線が強調されるように計画した.
効果は絶大で,建物に入った瞬間に訪れた人はその風景を発見する.
魅力的な風景として空間を彩ってくれるのである.

小さく素朴な建築であるが,場所の魅力を引き出すような,建築の力を実感できるプロジェクトとなった.