鵜沼の家

設計者の自邸であり実験的な要素を多く持った平屋の住宅である.

古くからの農家の多い集落内に建てられた.
敷地の西側が生い茂った林であり,建物の表側である東側には家族の住む隣家の農作業スペースが存在している.
西側の林は建物の背景として活かすことができる.
一方の農作業スペースは日常的に人がいることや,土埃や泥が落ちることから,住宅の居住性を損いかねない要因でもあった.
また,南側についても隣家の裏手が迫っており,決して良い環境とは言えない.

この複雑な環境と適切な距離感を保ちつつ,開放的に気持ち良く暮らす為にどうしたら良いかを慎重に検討した.
その結果,矩形の外形に対し,雁行した外部空間が挿入し,外部と繋がった中庭を中心に据えた間取りを採用するに至った.

また,建物の中心の中庭に面して,暖炉を設置した.
ダイニングキッチンとリビングで中庭を囲いその間に設置された暖炉もまたこの住宅の肝となっている.

暖炉は,性能面では薪ストーブに劣り,不安定でコントロールが難しい暖房機具である.一方で建築と一体的にデザインできることや,直接火を見ることのできる原始的な魅力が存在している.

「近代建築の三大巨匠」の一人で日本とも縁の深いフランク・ロイド・ライト(Frank Lloyd Wright)は,暖炉を建物の精神的な支柱として重視し,中心に据えた.
この住宅においても,場をつくり,場を繋ぐ役割を持たせ,大黒柱のような存在として暖炉を考えた.

この住宅ではトイレや浴室に行くために外部空間に出るという特殊な間取りを採用している.
また,子供部屋については屋根のない中庭を通ってアクセスする計画である.
一見,非常識な間取りであると言えるが,これはバックボーンに由来しており,問題なく生活できるという判断があってのものである.

トイレと浴室は屋根のあるテラスを歩いてアクセスする.
トイレは生活空間と切り離されることで落ち着いた空間となる.
これは以前に勤めていた設計事務所で20mほど屋外を歩いてトイレにアクセスしていた経験があった.
雨の日は多少利用しにくかったが,他の人を気にせずに利用できることや外の空気を吸ってリフレッシュできることから意外と悪くなかった.この住宅では屋根があり数m歩くだけなので許容できると判断した.

浴室にもメリットがある.
土いじりをしたり,外で遊んで泥だらけになった時,廊下やLDKを介さず外からそのまま浴室に入ることができる.
靴下に泥とカエルを詰めて帰ってくるわんぱくな子供(小学生の頃の私である)がいる家庭やアウトドア派の大きな子供(現在の私である)にはなかなか便利なものである.

LDKから中庭の反対側に見える部屋は子供部屋とそれに付属するフリースペースの土間である.
中庭を通らないとアクセスできない.
一体的な建築ではあるものの“離れ”と捉えるとピンとくる人もいるかもしれない.

私の実家では,両親の寝室が“離れ”にあった為,飛び石を歩いて行き来する日常があった.
また,私自身も車庫の一角にある倉庫で多くの時間を過ごし,食事の時間に母屋に戻るという少年期を過ごした.
抵抗感は皆無であった.

祖父母と母は母屋の裏にある作業場で夜遅くまで農作業をし,自身は車庫で過ごす.必然的に屋外でのコミュニケーションは増え,庭で遊ぶ時間も増えた.外で遊ぶ時間が増えた.

 

完全にコントロールできる環境としての住宅ではなく,コントロール出来ない要素と隣り合わせで生きていく.
そうした中で育まれる感性や強さがある.得られる感動がある.
それを大切にしたいという想いがこの住宅に込められてる.