伊東豊雄さんは台湾にも作品の多い建築家である.この建築は日本の作品を含めても最大規模で同時に指折りのコンセプチャルな造形ではないかと思う.
力作であることは実物を見るまでもなく明らかであるが,どのような体験となるのか想像がつかない.
予ねてより訪れたい建築であった.
竣工は2014年であるが,施工不良が多かったようで正式なオープンは2016年となったらしい.
特殊過ぎる建築である故に,そんなこともあるのだろうなと思えてしまう.
ともあれ,これが実現することに台湾の前向きな空気が感じられる.
訪れてみると,意外と落ち着いた佇まいであった.
壁天井,床が曲面で連続する構成は過激な考え方ではあるが,街での建ち方としては,四角いボックス状のまとまりを持っていることと,色彩が落ち着いていることがそう感じさせるのかもしれない.
前面に広場を設けたゆとりのある配置も良い.
広場は市民に良く使われており賑やかであった.
中に入るとその外観の大きさに対してこじんまりとして感じる.
壁が覆い被さってくることがそのような印象をもたらすのだろう.
床面積的には狭くないはずだが,ヒューマンスケールな空間である.
サンゴ礁の中の様であり,空間が広がったりすぼまったりしながらずるずると続いていく.
予想以上に奥行があったと思えば,気付くと元いた場所に戻っていたりする.
位置や方向の感覚が掴みにくい.
まるで空間が伸び縮みしているようだ.
新鮮な体験である.
抽象性の高い空間に階段が存在感を持って挿入されており,アクセントになっている.
現代建築としては珍しく吹き抜けは少ない.エントランスロビー直上のみ吹き抜けが設けられている.
日本の建築にお馴染みの防火区画等は見られず,設備類も目立たない.
2014年にギャラリー間で台中国家歌劇院を取り上げた展示があった.
帰国後に気付いたが,展示模型を撮った写真と偶然同じアングルで実物の写真を撮っていた.
この建築の模型を作るのは大変そうだ…
衣類や雑貨,植物などが売られるショッピングゾーンも洞窟を探検する様な気分で楽しめる.
カフェが水に囲まれた島状に設けられている.
水盤に落ちない様に置かれたプランターがかなり微妙.
コンサートホール内部は今回は見ることが出来なかったが,開放された空間を巡るだけでも十二分に楽しめた.広さや位置感覚が揺らぐ不思議な空間である.
類を見ない新鮮な体験のある建築であった.